RECRUITMENT INFO.

プロジェクトストーリー

未曽有の自然災害を教訓に
デジタルを利用した
復旧対策システムを開発

2019年9月8日に関東に接近した台風15号は、9日未明、関東として過去最強クラスの勢力のまま千葉市付近に上陸。これにより、東京電力グループ供給エリアでは、送電鉄塔2基が倒壊、電柱約2,000本が折れ、最大約93万軒の停電が発生した。特に大きな被害を受けたエリアを管轄する東京電力パワーグリッド木更津支社。復旧作業に奔走した5名の社員が当時の状況や心境を振り返った。また、この直後から非常災害発生時の復旧作業をよりスピーディーに行うためのデジタルシステム開発に向けた検討を開始。担当者2名には、開発プロセスとシステムの概要、そこに込めた思いを聞いた。

MEMBER
(所属・役職は取材当時のもの)

遠藤 繁

東京電力パワーグリッド
木更津支社 木更津制御所
館山地域配電保守グループ
保守リーダー
1993年入社

齋藤 翔

東京電力パワーグリッド
木更津支社 木更津制御所
館山地域配電保守グループ
2009年入社

瀧口 明生

東京電力パワーグリッド
木更津支社 送電技術グループ
運営チームリーダー
1996年入社

瀧本 明広

東京電力パワーグリッド
木更津支社 木更津地域配電建設グループ マネージャー
1989年入社

飯尾 真

東京電力パワーグリッド
木更津支社長
1996年入社

平松 保男

東京電力パワーグリッド
配電部 業務システムグループ
2010年入社

和田 孝平

東京電力パワーグリッド
経営企画室 経営戦略グループ
2001年入社

chapter01
これまでに経験のない
未曽有の自然災害に立ち向かう

関東として過去最強クラスの勢力で千葉県に上陸し、関東各地に深刻な被害をもたらした台風15号。グループ供給エリアでは最大約93万軒の停電が発生した。特に大きな被害を受けた東京電力パワーグリッド木更津支社の5名の社員たちは、迅速に復旧させることを目指して全力を尽くした。

遠藤
遠藤 

台風が接近してきた9月8日深夜。管内で配電線事故による停電が発生し始めたため、私は、作業員を現場へ向かわせ、復旧作業を指示していました。でも台風が近づくにつれて風が強まり、停電件数が爆発的に増え、現場に出ていた10名ほどの作業員では手に負えなくなりました。

齋藤
齋藤 

確かにそうでした。私は現場に急行し、被害状況を確認しながら復旧作業を行いました。これまで台風時の復旧作業は毎年のように何度もやってきたはず。でも今回は、これまで経験したどの台風被害よりもひどく、電柱が倒木によって折れたり、山肌ごと崩れてしまったりと、これまでの経験が通用しないと感じました。

飯尾
飯尾 

木更津支社では、8日夕方に非常災害態勢を立ち上げて、私は支社全体の指揮と本社との連絡調整の役割を担いました。風雨がピークとなった深夜、一番驚いたのは、現場からの「風が強すぎて現場で復旧作業ができない。一度撤収します」という連絡でした。現場の作業員たちは、復旧作業のプロといえるメンバーばかり。彼らが作業を中断し、避難するほどの風雨とは…。「これは、ただ事じゃない」と直感しましたね。

遠藤
遠藤 

現場では懸命の作業が続きましたが、直しても、直しても、直しても、停電する地域が増えていく……長年配電保守に携わってきましたが、こんな心苦しさを感じるのは、初めてでしたね。作業員の身の安全のために作業は一時中断。館山事務所も停電し、社内の通信が断たれ、社内のオンラインシステムも使用できなくなりました。

飯尾
飯尾 

確かに社内の通信システムダウンで木更津支社は“目と耳”をふさがれた状態でした。それでも悲壮感はありませんでした。それは木更津支社のメンバーは、台風への対応に関して百戦錬磨のメンバーぞろいだからです。たとえ経験したことのない災害でも、みんなを信じていましたよ。

遠藤
遠藤 

オンラインシステムが使えない中、再び作業ができるようになったのは翌日9日の明け方でした。携帯電話も通じず、無線機でなんとか連絡をとりながら現場の巡視と復旧作業を進めました。オンライン上の図面が見られないので、引っ張り出してきた昔の紙の図面と地元に精通した作業員の経験が頼りでしたね。

飯尾
飯尾 

ようやく現場に出られるようになってからは、早急な被害の全容把握のために、現場の巡視を始めました。私が指示したのは、「現状を把握しよう」「現場の写真を積極的に撮ろう」「身の安全を最優先に考えよう」ということ。連絡手段も少ない中、口頭で寄せられる情報から、送配電設備に大きな被害が出ていることが徐々に見えてきました。

瀧口
瀧口 

私は、状況を確かめるために、鉄塔を1基ずつ見て回りました。そこで確認したのが鉄塔の倒壊でした。鉄塔が台風で倒れるなんて、通常では考えられないことです。電力会社にとって送電線は、いわば大動脈。ここが壊れたままでは、いつまでもお客さまに電気を届けることはできません。私はすぐにその場で、この事故点を全体系統から切り離す工事の段取りを整えました。作業は、私が事務所を出てから24時間近くが経過した、10日の早朝まで続きました。

齋藤
齋藤 

今回は、今まで経験したどの台風被害よりもひどく、これまでの経験が通用しませんでしたね。昼は暑さと戦い、暗くなってからも作業は続きます。体力の消耗は激しかったです。でも一分一秒でも早く、お客さまに電気を届けたいという思いだけでいっぱいでしたね。

瀧口
瀧口 

確かに私も早く電気を届けたいという気持ちだけで動いていたと思います。体力的にもきつかったですが、それよりも経験したことのない設備被害に「いつ復旧作業が終わるかわからない」というプレッシャーのほうが重くのしかかりました。通信手段もないため現場の状況がわからず、懸命に働く社員のこと、現場では無事に作業が進んでいるのかなど考えていたことを思い出します。

瀧本
瀧本 

各現場で作業員たちが復旧作業を進めていますが、稀に見る甚大な被害のため、支社や周辺事業所だけでは対応できません。そこで、私は、他の電力会社からの応援受け入れを担当しました。基地には、全国から駆けつけてくださった車両が列をなし、最終的には電力会社10社、約1,000台の車両が集結。そのため、受け入れ作業は大変でしたね。誰にどの作業をお願いするかを判断して、作業の進捗情報を毎日、集約しなければなりません。みんなのパワーや思いを無駄にしないよう、効率よく現場に送り出せるよう頑張りました。

齋藤
齋藤 

グループ各社だけじゃなく、ほかの電力会社や自衛隊の皆さんには本当に助けられました。思いを一つに作業を進めた感じですね。さらに地域の方々からの「作業をしてくれてありがとう」という声が、私たちにとっては大きな励みでしたね。

遠藤
遠藤 

確かにそうです。現場では、日を追うごとにグループ各社をはじめ、他電力会社や自衛隊などから応援に来てくれる方が増えて、復旧のスピードが格段にアップしていったと思います。

瀧本
瀧本 

いつも一緒に仕事をする仲間とは違う、別会社のメンバーが集まっているので、工法も企業文化も違います。そのため工夫が必要でした。私は、現場での作業は、当社のやり方に統一しないで「とにかくお客さまに早く電気をお送りしたい」と伝えました。各社のやり慣れた方法で作業を進めることで現場での大きな混乱は回避されたと思います。

飯尾
飯尾 

経験したことのない被害の大きさに、事務所内でも現場でも不眠不休の仕事が続きました。それでも、誰一人、モチベーションの下がっているメンバーはいませんでした。みんなが、「お客さまに電気を一刻でも早くお届けしたい」という使命感に燃えていたからですね。

chapter02
ようやく復旧作業が終了。
あらためて感じたこととは…

不眠不休の設備復旧作業を通じてようやく電力が復旧した。今回の経験を通して東京電力パワーグリッド木更津支社の5名の社員たちは何を感じ、何を学んだのだろうか。

遠藤
遠藤 

毎日、昼も夜もない作業が続きましたが、街が徐々に明るくなっていくにつれて、私たちの気持ちも明るくなっていきましたね。目の前のエリアにパッと電気がついた瞬間の安堵感は、今でも忘れられません。

齋藤
齋藤 

地域の皆さまが作業中の私たちを見てくれていて、無事復旧できたときに「電気がないと大変だと分かったよ。ありがとう」と温かくいってくださる方もいて、連日の厳しい作業も報われた気がしました。

瀧本
瀧本 

電力各社が昼夜問わず対応してくださったことで復旧作業は大きくスピードアップ。そのおかげで停電も次第に収束し、9月27日、最後まで残ってくださっていた東北電力さまの車両引き上げをもって基地は撤収しました。復旧のため、遠方から集まってくださった皆さまの姿に、“電力の絆” を感じましたね。大規模災害は、今後もないとはいえません。大切なのは、万全な備え。電力会社同士で何があっても助け合える関係になりたいですね。

瀧口
瀧口 

今回の設備復旧作業を通じてあらためて感じたのは、私たちは「人のための仕事」をしているんだということです。この台風被害からの復旧に携わることで、私たちは人の生活に欠かせないインフラを守っている。私たちの仕事が社会へ及ぼすインパクトの大きさをあらためて痛感しました。電力に携わる者としての使命感がさらに強くなったと思っています。

齋藤
齋藤 

皆さまのもとに電気を届けられるようになり、とりあえずはホッとしています。台風のような自然災害は起こらないことが一番ですが、もし発生した場合にも災害に負けない強い設備をつくること、そして、被災した場合には迅速に復旧させることを目指して、これからもチームのみんなでスキルを高めていきます。

遠藤
遠藤 

これからも続く現場での作業に向けて、作業員の安全を守れるよう、気を引き締めなければと思っています。そして、これからもお客さまに選ばれる東京電力グループであるように、電気をもっと安定してお客さまにお届けできる体制を整えていきたいですね。

飯尾
飯尾 

すべてのお客さまのもとに電気を届けられるようになったときは、うれしさよりも安堵感に包まれていました。私たちの義務を、遅ればせながらようやく果たせたことに、皆、ホッと胸をなでおろしていました。「明けない夜はない」といいますが、支社のメンバー、東京電力グループのみならず、全国の多くの方々の協力があったからこそ、夜が明けたのだと思います。

chapter03
復旧活動の最適化を実現するために
デジタルシステムを活用

復旧にあたった東京電力パワーグリッドでは、その直後から非常災害発生時の配電復旧をよりスピーディーに行うためのデジタルシステム開発に向けた検討を開始した。

瀧口
瀧口 

復旧できたのは、さまざまな人が助け合って取り組めたからだと思います。ただ、喜んでばかりはいられません。しっかりと今回の対応を振り返り、同じような災害が発生したときに反省を活かせるよう、日頃から備えていかなければならないと強く感じています。

飯尾
飯尾 

今回の災害対応の中で一番の反省点は、被害の全容把握までに時間がかかってしまったことです。倒木や道路の寸断などで、巡視での現地の状況把握自体が困難であったことが主な原因でした。結局、被害の全体像が分かるまでに1週間を要しましたから。

和田
和田 

確かにどこでどのような被害が発生して、今どんな状況なのかという現地の被害情報は被災地域のお客さまにいち早くお届けすべきだし、復旧作業の進行にも関わってきます。状況把握と情報共有はとても重要ですよね。

平松
平松 

そうなるとやはりデジタル技術の活用に勝るものはありません。そこで2019年12月から、非常災害発生時に被害状況の情報共有をサポートする『配電復旧支援システム』と、災害現場に出向する巡視員が利用するスマートフォン版の『配電復旧支援アプリ』の開発がスタートしたんです。

和田
和田 

災害発生時に巡視員がこのアプリを立ち上げると、どの配電線がいつから停電状況にあるのかなどの情報が読み込まれます。これを確認しながら現場で巡視をスタート。電柱がどれだけ折れ、どれだけ倒れているか、何本の電線が断線しているか、倒木はあるのかといった情報を入力していきます。スマートフォンのカメラで写真を撮影して送信できる機能も搭載し、現場のリアルな状況を即座に共有することができるようになります。さらに通信状態が悪くても操作可能な仕様にしました。

平松
平松 

正確な現場の情報がほぼリアルタイムで共有できれば、優先して対応すべきエリアをすばやく把握して人員と機材を投入できますよね。復旧活動全体を俯瞰し最適化して、お客さまに不便な思いをさせる時間を短縮することにつながると思います。このプロジェクトに参加することになったときの高揚感は、今でもよく覚えています。一方で、かけられる時間が非常にタイトだったのも事実。通常、この規模の開発なら年単位のプロジェクトになりますが、今回は、翌年の台風シーズンまでには実装しておくことが絶対条件。かなりの強行スケジュールでしたね。

和田
和田 

さらに、システム開発を進めていく中で巡視員向けのスマートフォンアプリも開発することが決まったので、輪をかけてスケジュールはタイトなものでした。巡視員が現地で被害状況を入力していけることは今回のシステムの肝ですから、閲覧情報と機能を絞り込んでよりシンプルに操作できるものを目指しました。

平松
平松 

システムとアプリの両方の担当者が併走しながら開発を進めていくような形でしたね。システムは2020年7月、アプリは9月の完成を目指して、プロジェクトメンバー全員で一歩ずつ作業を進めていきました。予定通りの期日にリリースできたときは心からホッとしたのを覚えています。

和田
和田 

急いで開発を進めたシステムとアプリですが、結果的に2020年は配電網に甚大な被害を及ぼす災害は発生せず、実際に現場で使用される機会はありませんでした。もちろん、それに越したことはありません。大切なのは、『本番』に備えた準備ができたということ。開発に携われたことは本当に光栄だったと思っています。

平松
平松 

結果的に『本番』を迎える前に、現場からのフィードバックをもらえたことは良かったと思います。現場の声を受けて2021年7月には『訓練モード』を搭載。単なる『道具』ではなく、それを使う人や体制づくりの一助となれるのは私たちとしても望むところ。当初の目的であるレジリエンス強化につながるよう、今後も改善を重ねていきたいですね。

和田
和田 

大規模な台風や豪雨をはじめとする災害は、年々、増加傾向にあります。そうした中で、電力という重要なインフラを担っている私たちの責任は本当に重いと思います。いざというとき、正確な情報をスピーディーにお客さまのもとに届けられるように、そして、それをフル活用して早期の復旧を実現できるように、これからも精力的に取り組んでいきたいと考えています。

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